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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)139号 決定

抗告人

卞相来

外二名

主文

別紙目録記載の不動産について甲府地方裁判所が昭和五二年三月二日申立外両角保に対してなした各競落許可決定は、これを取消す。

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は別紙記載のとおりである。

本件記録によると、甲府地方裁判所が昭和五一年八月二〇日別紙目録記載の不動産を競売に付したところ、申立外須藤きくよが両角保を代理人として競買の申出をし、最高価競買人として別紙目録記載(一)、(二)の土地(同庁昭和五〇年(ケ)第一五三号事件の分)を金三、六〇〇万円で、同(三)の土地(同庁昭和五〇年(ケ)第一〇一号事件の分)を金四、一〇〇万円でそれぞれ競落し その各一割相当額の保証金を納付して、同月二五日競落許可決定を得たこと、ところが同人は競落代金の支払期日である昭和五一年一二月一三日午後二時まで右代金を支払わなかつたので、甲府地方裁判所が昭和五二年二月二五日右不動産を再競売に付したところ、今度は両角保が本人として競買の申出をし、最高価競買人となり、別紙目録記載(一)、(二)の土地を金三、七〇〇万円で、同(三)の土地を金二、八〇〇万円でそれぞれ競落し、その各一割相当額の保証金を納付して、同年三月二日本件各競落許可決定を得たことが認められる。

思うに、競売法三二条によつて準用される民訴法六八八条五項において、再競売に前競落人が参加することを許さない趣旨は、ひとたび競落人となりながらその代金の支払義務を尽さなかつた者は、その不信行為の故に再度競売に参加させることは適当でなく、また再競売においてもその義務の履行を期し難いこと並びに再競売に到らせることが適正な競売価額の形成の妨害や競売完結の遅延を目的として前競落人に濫用されるのを防止することにあると解される。

ところで、本件のように前競落人の代理人であつた者が再競売において本人として競落人となる場合には、右の法意に照らし、かつ右法条の潜脱を防ぐためにも、前の競落人と後の競落人は実質的に同一人とみなすのが相当であり、両者を同一視すべきでない特別の事情が認められないかぎり、同法条を類推適用すべきものと解される。

そうすると、本件において、最高価競買人両角保は、再競売に参加することが許されず、競落人となる資格がないものといわなければならない。従つて、別紙目録記載の不動産について両角保に対してなされた本件各競落許可決定は、不適法であり取消さるべきである。

よつて、抗告人の本件申立はその余の点について判断するまでもなく理由があるから、主文のとおり決定する。

(外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)

【抗告の趣旨】 一、別紙目録記載の不動産に対し昭和五二年二月二五日甲府地方裁判所で行われた競売期日に於て申立外、両角保が競落した競落許可決定はこれを許さず

旨の裁判を求める。

【申立の理由】 一、別紙目録記載の不動産に対し甲府地方裁判所が昭和五一年八月二〇日競売に付したところ左記の者が代金七千七百万円で競落し一割相当額の保証金を納付して最高競買人となつた。

山梨県塩山市四野原九七番地

最高価競買人 須藤きくよ

二、然るに競落人である須藤きくよは代金支払期日に代金の支払をなさなかつたので甲府地方裁判所は昭和五二年二月二五日を競売期日と定め、再競売を実施したところ、両角保が代金六千五百万円にて競買の申出をなし一割相当額の保証金を納付して最高価競買人の指定を受けたものである。

三、須藤きくよは夫、須藤袈裟嘉と共に両角保を使用して塩山市内で金融業を営んでいるか、両角保は須藤等の従業員であつて両角保自身には、競落代金を調達し得る能力はなく又須藤袈裟嘉も現在は倒産状態にあつてその能力はない。

四、再競売期日に於ける競落人、両角保は先の競落人であつた須藤きくよのロボツトであつて実際上は須藤きくよの身代り的存在で背後で操作しているのは須藤きくよである。須藤きくよに代金支払能力がないことは競売記録上明らかであるが両角保が須藤きくよのロボツトだとすれば両角保にも支払能力はないことになる。

五、このようにして見ると、両角保の競落は民事訴訟法第六八八条五項の規定を潜脱し、これに牴触する可能性が濃厚であるということゝ須藤きくよは公簿面上で見る限りでは申立人等に対し貸金債権を有しているかのように記載がなされているが現在では実体上貸金債権は全然有してはいないのである。

六、よつて申立人等は須藤きくよを相手取り債務不存在確認等の訴を提起すべく目下その準備中であるが競売手続が進行し万一競落代金の一部が両角保を通じて須藤きくよに支払われるようなことがあれば幸いにして後日申立人等が勝訴の本案判決を得てもその実現が困難となることが予想される。そうなつた場合申立人等は回復すべからざる損害を蒙るおそれがあるのでこゝに申立人等は民事訴訟法第六七二条二号及び第六八〇条の規定に則とり本申立に及んだ次第である。

目録〈省略〉

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